将棋戦国史
2008-01-25


天才棋士たちの系譜

斉藤哲男   新潮社   600円

子どものころ、将棋は室内娯楽の王様だった。
男の子の間では将棋が強いことは、
けんかが強いことなんかと並ぶ勲章になっていた。
教員も教室においてある将棋盤を撤去などせず黙認していたから、
雨の日はにわか将棋大会になっていたりする。
運動部に属さない子どもは毎日のように、
放課後、将棋に興じ勝敗に一喜一憂していた。
そういう将棋も、ゲーム機の誕生で室内娯楽の王様から転がり落ちた。
でも、ソフトウェアとしてしっかりしぶとく生き残っている。
だから今でも羽生2世を夢見て将棋に魅せられる子どもがいる。

多くの子供たちのごたぶんに漏れず、
僕も小・中学生のころは将棋を楽しんでいた。
結局クラスでは強い部類にはなりえても、
学校の番付10位になることもできなかったから、
才能はなかったんだろう。
棋譜を並べたりして研究したけど、
結局は誌上認定テストの初段にさえ届かなかった。
まあ、ほとんどの子はそんなもんだった。

友人たちの間でスターだったのは、なんといっても升田幸三9段。
大山名人の全盛期だったけれど、
僕たちの間では絶大な人気を誇っていた。
早石田戦法なんて奇抜で攻めアジに飛んだ将棋を、
みんな真似ていたものだ。
どっちかが升田戦法を目指すと、対手は大山よろしく受ける。
そういう将棋を無常の楽しみにしていた。

本書は、升田・大山の時代を遡ること400年から、
時の棋界の第一人者たちを紹介していく。
宗桂に宗歩、坂田三吉、木村良雄などの将棋の神様たちの激闘の棋譜と、
人となり、時代背景を交えて、天才たちの足跡を語っている。
残念ながら名を残すに至らなかったライバルたちを乗り越えていく、
天才棋士たちの生き様に、凄絶さと清々しさが見えてくる。
将棋は生き様であったのだ。

現在の棋界を見返してみると、
過去の天才たちのような人間味が伝わってこない。
もちろん現代棋士も掘り返せば面白い生き様が隠されているんだろう。
だけれど、過去の天才たちの破天荒ぶりは、想像を絶する。
将棋に興味がない人にも、本書は人間ドキュメントとして読めよう。
[読書]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット