太陽の塔
2008-04-22


森見登美彦   新潮社   400円

「日本ファンタジーノベル大賞」受賞作との紹介を見て読もうと思った。
2003年に発表された小説である。
2007年に『夜は短し歩けよ乙女』の発表以後、
人気沸騰中であり、シュールで且つ幻想的な作風なのだそうだ。
マジックリアリズムと呼ばれる作法らしい。

人気爆発ということで前から一度読んでみようと思っていたが、
なんとなく会わないかもと思っていたのだが、
『太陽の塔』というシンボルがタイトルとなっていたことと、
大賞受賞作という点が目を引き、読むことにしたのだ。

著者は京都大学で学んでおり、
『太陽の塔』という題名にも拘らず、
京都が主な舞台となっている。

太陽の塔はかの機才岡本太郎氏のデザインで、
1970年の日本万国博覧会のシンボルとして建設され、
現在も万博記念公園にあるモニュメントである。
万博を知る者にとっては、
未来に向けられた象徴として記憶しているものだ。
万博のころの記憶では、
ライトアップされた姿は異様で不気味という感覚があった。
塔の内部の陳列も、地球の進化をテーマとしていたように思う。
母なるものの胎内を感じさせるイメージが強かった。
そのイメージを、文字通り感じさせる傑作だ。

大学生活には華がない。特に女性と縁がない。
やっと水尾さんという彼女ができたものの、
よりにもよって振られてしまう。
未練たらたらの『私』は水尾さんをじてんんしゃに乗って、
すストーカーよろしく追っかけ、付回し、
「水尾さんレポート」をつけるのを日課としている。
そんな『私』の行動を邪魔する男もいれば、
同じようにもてない同胞たちとの惨めな飲み会もある。
『私』の妄想は、太陽の塔の不気味さを超え、
京都中を疾走する。
さえない、金のない、彼女のいない大学生たちの、
幸せそうな人たちに向けられた憧憬交じりのやっかみは、
やがて四条通で繰り広げられる『ええじゃないか騒動』へと発展する。

するめをライターであぶったり、
ゴキブリキューブなる面妖、且つ不気味なものも登場する。
地味だけれど、すっ飛んだ京都大学学生の生活は、
しみじみと沁みこみつつ、大爆笑させる。

たいていの人に貧乏学生だった過去を思い出させてしまうんじゃなかろうか。
[読書]

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