2009-07-01
折原一 実業之日本社 1700円
ブックオフで105円で売っていたから買ってみた。
1997年に出版された作品である。
『不帰に消える』、『不帰の嶮、再び』という
山岳遭難で落命したものへの追悼集と
その別冊が一つにまとめられ田という想定で発表された。
折原一は1951年生れ。
サラリーマンを経験した後、1980年代より作家を志したようで、
それ以後、年に数作品を発表しつづけている。
叙述トリックの名手とされ、根強い読者を獲得しているようだ。
僕が折原一の作品を読んだのは[覆面作家]のみ。「
覆面作家」では見事に騙されたという記憶が残っている。
一人のものが書き進めていると思わせながら、
実は二人が書いていて、
それも一人は妄想の中に生きているとの叙述の結末に、
途中で気がついたとはいえほぼ終盤まで分からなかったため、
複雑な感想を持ってしまった。
印象としては悪いほうに振れたのかもしれない。
その後、折原作品を読むことはなかった。
『遭難者』は冬山訓練をかね、
白馬岳に挑んだパーティーのうちの一人が
難所を越えた場所で滑落死し、
その死を痛む追悼集という形で進められる。
遭難死する人物に詳細な生い立ちと属性を与え
実在すると思わせる作りこみをしている。
登山計画や写真なども矛盾無く用意され、
遭難死までの経緯を詳細に描く。
そこには事故以外とは読み取ることのできない
完璧な遭難が描かれている。
この物語のどこにミステリを展開するのかと読み進めていくと、
意外なところから物語を力技で殺人事件に結びつけるのである。
物語の感想をこまごまと書くと
ミステリとしての魅力を損ねてしまうので書けない。
しかし、小さなエピソードを挟んで事故ではない多数の可能性を示しつつ、
犯人らしいと思わせていたものじゃないものが犯人としているあたり、叙述トリックの名手としての面目躍如足るところがある。
でも、なんか肩透かし食ったような気がするのも仕方ないことですね。
ここから先は読んではいけない。タネ・ネタばればれ
『遭難者』はミステリとして書かれている。
だから、単なる遭難であるとは考えられないし、
遭難事故が起きたときのパーティーの中に
犯人がいるらしいと見当をつけることができる。
動機も手口も不明だが、ミステリである限り必ず犯罪がある。
一見事故以外に何も考えられない状況であれ、
ミステリである限り動機も手口もある。
そう思い読んでいるのに、なかなか手口も動機もわからなかった。
特に死んだ笹村の日記を遺族が見つけた後、
笹村が婚約指輪を送った女性の存在と、
その女性が心変わりしたらしい手紙が存在することで、
失恋の痛手による自殺を強く意識させたことで、
他の動機から目を離させている。
第一部の終わり方は、笹村の母による元恋人を道連れにした心中、
死を考えさせた女性を巻き込んでの復讐劇
というように読ませようとした点が著者の工夫だ。
2分冊にしたのは、この結論を大きく転回させる上での工夫であった。
第2部では、笹村の妹が相次ぐ兄と母の死に疑問を感じることで書かれる。
元恋人が誰か。母が半ばまで突き止めていたのは
遭難行で一緒だった女性の中に元恋人がいるらしいということ。
山行に同行した五十嵐はそれらの女性と関係があるらしいという点だ。
また、笹村には会社の金を使い込んだとの疑惑もある。
こちらは自殺説を裏付ける傍証となる。
こういうエピソードをちりばめておきながら、
まったく違う動機で起こされた殺人劇との結末が用意されている。
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