キッドナップ・ツアー
2009-09-14


角田光代   新潮文庫   400円

角田光代は、『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞受賞するなど、今や押しも押されぬ人気作家の一人。ぼくはこの人の作品は「愛がなんだ」という作品は読んだっけという程度。なんか面白いと感じたが、ぴんと来なかったというイメージがある。なんか人を好きになる難しさを訴えていたなという薄ぼんやりとした記憶がある。
この「キッドナップ・ツアー」は、以前評判を聞いておりいつか読もうと思っていた作品だ。もともとは子供向けの物語として書かれたようだが、大人が読んでも十分に鑑賞に堪えられる作品だった。さすが評判となっただけのことはある。
実父に誘拐されるハルという名の少女のひと夏を描いている。
ハルは父と母の三人家族で、なにやら父は2ヶ月前から家からいなくなったらしい。どうやら離婚しているらしいと知れる。誘拐の動機など背景は最後まで語られることは無いが、このお父さんずいぶんとだらしない男のようだ。日の着いたタバコをゴミ箱に投げ込んで小火騒ぎを起こしたり、貝にあたって苦しむ妻を見て妊娠したと騒ぐばかりか身に覚えが無いぞといってみたりと散々だ。
そんな彼が娘を誘拐する。復縁を迫っているのか、金目的なのかははっきりしない。ただ、娘を連れまわしあっちにこっちにふらふらと逃げ回る。母のほうも別に警察に手配しているわけではないようなので、なんというのか作品の中では誘拐というイメージは存在しない。
この誘拐中に、ハルはお父さんとの関係を少しずつ築き上げる。お父さんのいなくなった家では、不自由なく暮らしていたハルだが、お父さんとの一緒の行動中は、お父さんの生活観を反映してか、まあまあの旅館から宿坊、ついには野宿と、桂格差のかけらも無い毎日を過ごす。そういう生活の中で忘れていたものを思い出すのだ。
誘拐のたびが終わるとき、ハルが漏らす言葉と、それに答えるお父さんの言葉が泣ける。
[読書]

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