さよなら妖精
2011-11-09


米澤穂信    創元推理文庫    743円(別)

2004年に発表された出世作。
この作品を契機にこのミスでも常に上位に位置するようになった。

米澤作品は、「犬はどこだ」などを除いて、
高校生から20歳くらいまでの人物が主人公に設定されている。
また、殺人という扇情的な事件ではなく、
そこかしこに転がっている出来事を謎に変えてしまう。
読み終えて苦みがあったとしても、さわやかさが填補されたものである。
だから青春ミステリと呼ばれることが多い。
本作も、まさに米澤作品の代表と言えるたたずまいとなっている。

守屋路行が電話したのは高校の同窓生・太刀洗万智。
記憶をたどることで一人の少女の足跡を推し量ろうというのだ。
賛同した白河いずる、集まりはできないものの資料提供をする文原竹彦。
だが太刀洗は協力を拒絶する。

一年前、下校途中の守屋と大刀洗は雨宿りをするひとりの少女と出会う。
少女はマーヤと名乗った。ユーゴスラビアから日本に来た。
聞けば所持金も少なく、宿泊先もない様子。
袖触れ合うも他生の縁。
守屋たちは同級生の白川の家を紹介した。
そして少女と4人の高校生が、3か月に満たない交流を果たす。

マーヤは、いずれ祖国で政治の世界に入るため、
他国のいろいろなものを吸収しているのだという。
マーヤが日本の情景に驚き『哲学的意味がありますか?』と問う。
そして守屋たちもユーゴという国の謎を知り驚く。
遠い国から来た少女・マーヤと過ごす、謎に満ちた日常。

いよいよユーゴの情勢が緊迫した時、マーヤは帰国する。
帰国する場所を知らせることなく。
覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、そして紫陽花。
謎を解く鍵は記憶のなか。
マーヤはどこに帰ったのか。最大の謎解きが始まる。
マーヤと大刀洗の優しさが胸にしみる一冊です。
[読書]

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