相沢沙呼
相沢作品は「マツリカ」シリーズのほかに
卯月の雪のレター・レター ―
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午前零時のサンドリヨン/相沢紗呼
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などを読んでいる。このところはまっている作家だ。
相沢作品は10代から20代が主人公に据えられていて、乱暴に分類すれば
日常の謎を扱うミステリ作品群と、女性心理を描く非ミステリ青春小説群に大別できる。
どちらであれ男性作家であるのに上手に女性心理が描かれる。
(こういう女性が望ましいとする男性の願望なのかもしれないが)
で、マツリカ・シリーズでは完全にキャラで引っ張るようになっている。
この城塚翡翠を探偵役に据える物語も、翡翠の造形で引き付ける作品となっている。
ミステリとしては、本格ものと呼ぶには、少々掟破りな気がする。
作品は4つの章と間に挟まれる短い断片、それとプロローグにエピローグからなる。
この形は、たいていメインストーリーの裏事情を明かすやり方なので
たいていの場合主な登場人物のうちの誰かの視点となる。
先行作品を読んだことがあれば、だれが該当者となるかは早期にわかってしまう。
本作でも4章で断片で起きている事件の犯人と探偵の対決が置かれている。
その他の3章では霊視により犯人を知ることができるという翡翠の能力を
論理だてた推理によって解法を探し出す小説家・香月が
探偵と助手のコンビとして、難事件を解決するようになっている。
1〜3章では、翡翠はたぐいまれな美貌で神秘的な雰囲気を演出する霊媒師であるが、
実相は少々天然ボケぶりを持つ可愛い女性として描かれる。
一方、香月は紳士的で小説を執筆する頭脳明晰な整った美男で、
その犯罪への造形の深さから警察捜査に協力する人物とされる。
物語が進むにつれ二人の間は親密さを持つようになる。
全体的には香月サイドの描写が多く、時折小さな事実がさらりと挿入されている。
それらが最終4章ですべてつながる仕組みとなっている。
面白い小説だと思う。よく考え抜かれている。
作品の魅力の半ばは翡翠の造形からきているといえる。
巷間では「翡翠、かわいい」などの辞が多数記されている。
翡翠の魅力は認めるもの個人的にはマツリカの落差のほうが好ましいと思う。
エピローグにおいて翡翠の事件決着後の姿は同居人の視点で語られる。
その姿が、もう一度翡翠の姿を混乱させることになる点も面白い。
さて本格としては掟破りと書いたが
翡翠がはじめから疑っているというところが奇妙だ。
読者には犯人の姿は見えるようになっているが、
4章の翡翠の謎解きが正しければ、
その時点で予想できるには情報が足りない。
パズル解きの巧みさとスピード感でごまかされてしまうのだけれど、
冷静に考えればちょっと変。
霊媒師かニセ霊媒師か、翡翠の姿はどこにあるのか、
それらを含めての「Medium」というタイトルなのなら
凄すぎるマジックだよ。
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