今村翔吾
『塞王の楯』が直木賞を受賞しますます人気が出ている今村さん。
著者の作品を読むのは『童神』に次いで2冊目となる。
その時の感想はこちら↓
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この小説は石田三成を、賤ケ岳7本槍を通して描き出す趣向となっている。
従来の作品では三成を含む文治(官僚)派と武断(軍人)派との確執が
豊臣家臣団の分裂を生んだとする。
中でも加藤清正と福島正則が三成を憎み対立するのが鉄板となっている。
それを覆すのが今村作品の面白さである。
加藤清正に始まり、糟屋武則、脇坂安治、片桐且元、加藤嘉明、平野長泰と続き
最後に福島正則が三成との関係を騙る。
そこから滲みだしてくるのは三成という大才の仁気あふれる姿なのである。
そして清正にせよ、正則にせよ、に次なりを決して厭うのものでなかったとする。
たしかに確執はあり、東西に分かれた三成と清正、正則であるが
それは豊臣家をどう守るかという路線対決であり、
対人関係のまずさにのみが原因とはしていないのだ。
だから、官名で呼び合わず小姓時代の名で語り合わせる。
誰もが三成を認めている。が、ある者は敵対し、ある者は殉じていく。
このありようが美しくないわけがない。
新たな彼らの姿は、凄絶に美しい。
できれば事実もこの作品のようであれかしと願う。
従来の作品群より、それぞれが人間らしくていい。
最後に配された正則が淀殿に放つ言葉が、
この作品のタイトルとなった肝であり、本作を一級品足らせたすべてだ。
七本槍と三成の真の形が、これにある、と思わせる力作だ。
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