われ、謙信なりせば
2008-08-15


風野真知雄   祥伝社   657円

副題に「上杉景勝と直江兼続」。

「奇策」では初めて出会った風野作品は、
「水の城 いまだ落城せず」
[URL]
でもそうだが、関東の戦国末期をよく扱う。

「奇策」が北方・伊達との戦いを描いていたのに対して、
本作品では、関東との対峙の瞬間を描いている。

上杉景勝という武将は、謙信と比べれば勇名は及ばないが、
なかなかの豪気に満ちた勇将のようだ。
景勝を支えた兼続も、秀吉から知将・勇将として讃えられ、知られている。
景勝も兼続も、謙信たらんとしていたというように世に伝えられている。
秀吉没後、家康が天下取りに乗り出したとき、
謙信の義を全うせんとして立ちはだかったのがこの主従である。

石田三成との黙契があったとされる上杉主従である。
家康の上杉討伐軍を北上させ、機内での三成挙兵を促し、
三成との挟撃を図っていたとの観測もよく出されるが、
深い謀計がなされていたとは風野氏は採らない。

義と武門の意地を貫こうとする景勝がいて、
景勝を天下人たらしめんとする兼続がいる。
そうした微妙な主従の思惑の違いを下敷きにして、
関ヶ原戦役の謎解きをして見せるのである。

佐竹80万石と上杉120万石の連携があれば、
家康と対峙しても戦える。
関ヶ原に向かう家康を追い落としにかけたなら、
この後の歴史は大きく変わったのかもしれない。

謙信の影を追い求め続けた主従の、
けれんみのない生き様が清々しい。

最後に配された章が、義を重んじる上杉の家風を爽やかに示す。
幕末にまで義を重んじる上杉魂は連綿と続いていくる
[読書]

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