星守る犬
2009-08-09


村上たかし   双葉社   762円

 重い漫画である。
 読んでいて苦しくて仕方なかった。それでいて心洗われる。
 とっても大切なのにどこかに置き忘れていたものを思い出した気にさせてくれる。

 一台の放置車両に死後一年以上経過した男性の遺体と死後3ヶ月の犬の遺体が発見される。
 捨て犬だった犬は心優しい女の子に拾われ、その一家の一員となる。
 幸せそうな三人家族の中で、ハッピーと名づけられた犬は少しずつ年をとっていく。
 一年が過ぎ、また一年が経つうち、ハッピーの周りは変わっていく。
 遊んでくれた女の子はハッピーから遠ざかっていき、
 ご飯を用意してくれるのが母親からお父さんに代わっていく。
 散歩の時間も朝晩ではなくて昼間になったりする。
 お父さんは心臓病にかかり、職を失ったということらしい。
 そんなお父さんに母は離婚を願い出る。
 家も家族も失ったお父さんはハッピーと二人だけで旅に出る。
 計画も無い、何も無い、南を目指しての旅。

 それがどうして一年の時間差で遺体となったのかを淡々と物語る。

 お父さんの生き方はまじめだ。優しいとさえ言える。
 ハッピーのありようは人が犬に求めるもののすべてだ。
 満天の星を見ながら力尽きていく二人の姿は、
 この生きにくい時代のぼくたちに何かを伝えうるものとなっている。

 同時収録の「日輪草」は「星守る犬」に収め切れなかった背景を、
 ケースワーカーの目で追い求めるものとなっている。
 このケースワーカーは遺体の犬に対して憐憫を感じ、
 彼らのさすらいを解こうとする。
 ケースワーカーには犬との苦い思い出があるのだ。
 飼い犬の臨終にあたって
 「怖れずに愛してやればよかった」との後悔をしている彼は、
 寄り添う一人と1頭の遺体に、幸せの姿を見る。
 
 一人と1頭の生きた軌跡に関わった者たちの姿を垣間見せ、
 この漫画は終わっている。

 犬との関係において、この主人公二人の対比を見るとよい。
 一途な犬に重荷を感じたらケースワーカーのようにいじめることはある。
 仕方なく付き合っていても、お父さんのように優しく接することもある。
 そのどちらもが人間である。

 願わくば、お父さんのように付き合い、ケースワーカーのように看取る。
 そういう人でありたい。
 犬をおいて先には死ねない。
[読書]

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