最低の軍師
2019-01-18


箕輪諒  祥伝社  740円

上杉輝虎(のちの謙信)が義を掲げ、
関東出兵を繰り返していたことは名高い。
また足利義輝と盟友といってよい関係にあったとする解釈も、
多数なされている。本作もそういう前提で書かれている。

上杉軍が満を持して関東出兵に出た。
関東の要衝にある下総国臼井城は、
上杉の侵攻に対し、北条に援軍を要請するものの、
派遣されたのは松田孫太郎を主将とする250名あまりのみ。
総勢一万五千といわれる上杉軍に対し、
臼井の兵は援軍を加えても二千ほど。
抗戦か降伏か、紛糾する城内をまとめるため、
松田孫太郎は道端の易者を軍師に仕立て、交戦させる策とした。
たてられた偽軍師それが白井浄三である。
ところが、浄三は軍配者として優れた実績を持っていた。
うさん臭さを十分に発揮していた序盤から
城中の者たちや、直情家・孫太郎に接するうち
浄三は本来の能力を現し想像を絶する奇策を次々と画策していく。

タイトルの「最低の軍師」の意味は、
講和交渉に来た上杉方武将・川田長親により明らかにされる。
なるほどと思わせる仕掛けである。
ただ浄三の最後の策がしっくりこないところとして残った。
籠城戦の長期化を嫌う上杉勢が越後に帰ると読んでいたなら、
この策を仕掛ける意味があったのか
浄三の本来の使命遂行を捨てる策だけに疑問。

最初に書いたように、輝虎と義輝が描いた構想というものがあり、
物語の進行に伴い明かされる浄三の経歴や思想に寄り添えば
確かに最低な結果となる。たてた策が完璧にはまったがゆえに、
戦術的勝利を城方にもたらしはするものの、
自らの信じる道から見れば戦略的に失策したということになる。

名高い攻城戦だが、詳細は残されておらず、
臼井方の主要人物についても資料が少なく、読み異聞・伝承が多い。
特に白井浄三については以後、この攻城戦以外はっきりしていず、
エピソード等でも作家の創造性を発揮しやすかったのか
史実の中にありながら自由奔放に書かれていて、
娯楽性に富む読み応えのある作品になったと思う。

なかなかの好作でした。
[読書]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット